このチーズには、神に捧げるに値するものがある
オホーツクのナチュラルチーズは1977年東藻琴村(現大空町)に開設された村営チーズ研究所を皮切りに、幾人かの酪農家による農家製チーズとして作られてきました。 堤田克彦さんが、チーズ作りを開始したのは1994年。興部町の牛舎を買いうけ、チーズ工房を開きました。堤田さんは酪農家ではありません。生粋のチーズ職人です。 職人としての気概が生む特別なチーズ 堤田さんは自分のチーズ作りをあれこれと語りはしません。しかし、「酪農家だから美味しいチーズが作れるのではない、美味しいチーズを作ろうとする者の様々な経験と試みの中から美味しいチーズはできるのだ」といっているような気がしてなりません。 堤田さんのチーズ作りはほとんど独学によるものです。長期熟成チーズを手がけ、ウォッシュタイプ、青カビタイプのチーズも作ります。出来上がったチーズはオホーツクや北海道という範疇を超えて、明らかに日本のチーズを代表する美味さといえます。日本だけではなく世界のチーズコンテストで評価されることも明らかでしょう。 それにしても何故、堤田さんは表舞台に立とうとしないのでしょうか。堤田さんの口からは商業的意味合いの言葉は決して出てきません。そこには職人の気概があるのみです。「手作り」ということさえも言いません。 大事なことはできたチーズが美味しいかどうかだけ 「美味しいチーズができたという結果が大事なのであって、工程はどうだっていい」。「自分の作りたいチーズを作ったらお客さんがついただけ」。すべては自分のチーズを作るために、美味しいチーズを作るために。そして工房で作れる量には限りがあることも事実。堤田さんは「チーズは機械が作るのではない、人が作るものだ」と言い、そこにチーズの個性が生まれると言います。 アドナイ(ヘブライ語で神を意味する)という言葉。自分の工房に付けたこの言葉に堤田さんのチーズ職人としての心構えが見える気がします。職人の仕事とは、「神の御業を授かる準備をすること」なのだと。
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